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アコニチン・テトロドトキシン

アコニチン(aconitine)はトリカブトに含まれる有毒成分。
致死性の毒として古来から有名で、附子としても知られる。
標的タンパク質は神経細胞にあるナトリウムチャネルで、活性化による脱分極を引き起こし、嘔吐や痙攣、呼吸困難、心臓発作を引き起こす。

テトロドトキシン(tetrodotoxin)はフグなどの生物が持つ有毒成分。
フグなどの生物の体内で生産されるのではなく、元々は微生物によって生産されたものが生物濃縮で蓄積している。
筋肉や神経のナトリウムチャネルを阻害することにより麻痺や痙攣を起こし死に至る。

アコニチンとテトロドトキシンは共にナトリウムチャネルを標的としており、その作用は拮抗している。
そのため、この二つを同時に服用すると中毒作用は抑制される。
しかし、テトロドトキシンの半減期はアコニチンより短いため、拮抗作用が崩れると、アコニチン中毒で死亡する。
このことを利用したのが1986年に発覚したいわゆるトリカブト保険金殺人である。

<トリカブト保険金殺人>
犯人の神谷力は1981年に一人目の妻、1985年に二人目の妻が死亡しており、その都度死亡保険金を受け取っていた。
1986年5月20日、神谷の結婚したばかりの三人目の妻(当時33歳)が旅先の沖縄県で急死した。
被害者は石垣島のホテルに到着した直後に嘔吐を繰り返すなどして苦しみだし、病院到着後に死亡した。
行政解剖による死因は急性心筋梗塞だったが、不審に思った医師が心臓と血液を保存、それが後に事件解決の手がかりとなった。

神谷が1億8500万円もの死亡保険金をかけていたことや、神谷の素性や行動に疑問を感じた被害者友人達が声を上げたことで警察が捜査を始めた。
保険会社は保険金の支払いを拒んだが、神谷は民事訴訟を起こし、無実を訴えてマスコミにも出るようになった。
一審では神谷が勝訴した。

最大の問題は、彼女が倒れた時、神谷が那覇で別行動をしていたことだった。
死亡する1時間半程前、被害者は神谷から渡されたカプセルを飲んでいたが、その成分は不明だった。
しかし、行政解剖時に保存していた血液中からアコニチンが検出された。
このことが取りざたされた二審で神谷は訴訟を取り下げ、1991年6月に逮捕された。
その後、神谷にクサフグを売った漁師が見つかり、二つの毒を巧みに使ったトリックが明らかになった。

2000年2月21日、最高裁で神谷の無期懲役が確定。
2012年11月17日、大阪医療刑務所で病死。享年73歳。

<リンク>
アコニチン(Chem-Station)
自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒(厚生労働省)

ヒ素

ヒ素(元素記号As)は地球上に広く存在する元素である。
毒として使われるのは三酸化二ヒ素(As2O3)で、ヒ素の三価化合物には有毒性がある。
三酸化二ヒ素の致死量は200〜300mg。
一度に大量にヒ素を摂取した場合、二日以内に50〜70%が死に至る。

通常、ヒ素による毒殺では食べ物などに少量ずつ混入するという方法が取られる。
症状は普通の病気に似て、少しずつ体力が衰えてやがて死に至る。
入手が容易なことからローマ帝国時代からよく使われていた。
しかし、ヒ素のような重金属は体外に排出されず残る。
19世紀には既に死体からヒ素を検出する手法が開発されている。
1840年には遺体の臓器から検出されたヒ素が決め手となり、死刑判決が下された例がある。
現在ではヒ素の検出は容易となり、かつてのように完全犯罪をもくろんでヒ素を使うことはなくなった。

<和歌山毒物カレー事件>
1998年7月25日、和歌山県和歌山市で行われた夏祭りにおいて、カレーに毒物が混入されて4人が死亡した事件。
近所に住む主婦の林眞須美が逮捕され、2009年最高裁で死刑判決が確定した。
この事件で使われたのが毒物として使われたのがヒ素だった。
林は罪状を全面否認しており、状況証拠しかなかった。
そこで検察側はSpring-8を用い、カレーから見つかった結晶や被疑者宅で見つかったシロアリ駆除用の亜ヒ酸などを放射光による蛍光X線分析を行った。
結果、サンプルに含まれる微量金属が一致し、カレー中の亜ヒ酸とシロアリ駆除剤の亜ヒ酸は同一のものと鑑定された。
これを証拠に一審、二審とも被疑者に死刑の判決が下った。

なお、林は現在も冤罪を主張しており、弁護団はこの鑑定についてもミスであったと主張している(和歌山カレー事件の鑑定ミスはなぜ起きたか Videonews.com)。
この件については当時鑑定を行った中井泉氏と再鑑定を行った河合潤氏が『現代化学』(東京化学同人)誌上でバトルを展開した。
現代化学 2013年 6月号で河合氏が疑問を呈し、8月号では中井氏が実際のデータを基に反論。
10月号で河合氏が更に反論(河合氏のWebサイトにPDFあり)。
専門誌ゆえ、よほど大きな図書館や理系学部のある大学図書館にしか置いていないが、特に中井氏の生データは興味のある人には面白いはず。
林眞須美さんを支援する会のWebサイトからも河合氏らの文献が一部読める。

<参考>

ニュースになった毒 Anthony T. Tu 東京化学同人

パラコート

パラコート Paraquat
ビピリジニウム系に分類される非選択型除草剤の一種。
イギリスで開発され、日本でも1965年に発売されている。
除草効果が高いことから広く使われているが、一方で毒性が強いために自殺や無差別殺人事件に使われた。
中毒症状を起こすと、最初は嘔吐やショック症状が見られる。
数日中に肝機能障害や腎臓障害が現れ、この中毒症に特徴的な肺水腫・肺線維症により死に至る。
ヒトの経口最小致死量は30mg/kg。
致死率は高く、有効な治療法は現在も確立していない。
血漿中のパラコート濃度と摂取してからの時間から生存・死亡が予測出来る(プラウドフットの生存曲線)。
現在は濃度を低くし、ジクワットとの混合溶液として販売されている。
着色したり嘔吐剤を混ぜたりなど事故防止策が取られている。

<作用機序>
パラコートは細胞内に入ると、NADPHから電子を受け取ってパラコートラジカルに変化する。
パラコートラジカルは酸化されてもとのパラコートに戻るが、その際に活性酸素を発生する。
この活性酸素が細胞を傷害し、やがては細胞死へと至らしめる。
パラコート←→パラコートラジカルへの変化は繰り返し起こるので、少量でも強い毒性を示す。
パラコートラジカルの発生する場所としてミクロソーム説とミトコンドリア説とがあるらしい。

参考
パラコート中毒、ジクワット中毒(gooヘルスケア)

<パラコート連続毒殺事件>
1985年に日本各地で起きた無差別毒殺事件。
自動販売機の商品受け取り口にパラコートを混入したジュースなどを置いておくという手口で、置き忘れだと思いこれを飲んだ人々が中毒症状を起こした。
模倣犯を含め34件の事件が起き、13人が死亡している。

パラコート連続毒殺事件(wikipedia)
余談だが、この項の自演というところにある東大阪の中学生の事件が切ない。

リシン

トウゴマの種子から抽出される毒性タンパク質。
毒性は非常に強く、成人でも3mg吸入すると死に至る。
過去には生物兵器として利用されたこともあり、現在もテロへの利用が懸念されている。
実際、1978年にイギリスで発生したGeorgi Markov 暗殺事件に使用された前歴がある。
また、2003年にはアメリカのホワイトハウスにリシン入りの手紙が送られている。
同様の事件は2013年4月にも発生した。

なお、日本語だとアミノ酸のリシン(lysine)と発音は同じだが、こちらの綴りはricin。

<作用機序>
28S rRNAを切断し、リボソームによるタンパク質合成を停止させる。
タンパク質を合成出来なくなった細胞は死に至り、組織の機能不全に至る。
吸引してから4-24時間後には発熱・咳・息苦しさ吐き気・関節痛などの症状が現れ、1日半〜3日ほどで死に至る。

<治療>
現在のところ、有効な治療法はない。
ワクチン開発や解毒剤の探索が進められている。

万が一リシンに触ってしまったら、口や鼻には触れず、すぐに手を洗う……どこ見てもこのくらいのことしか書いてないのが恐ろしいところ。

<参考>
The quick facts about ricin (Nature・英語)
US ricin attacks are more scary than harmful (同上)
2013年の事件を受けたリシンに関する科学雑誌Natureのニュース記事。
上はリシンの解説、下はワクチン開発の現状についての記事。
PDBjの今月の分子2013年にも記載あり。

リシン毒素について(横浜市衛生研究所)
Georgi Markov 暗殺事件についてはこちらを。
被害者は傘に偽装した武器で襲われ、リシンを埋め込んだ弾丸を打ち込まれたそうだ。
まるで映画のよう……
なお、この弾丸はイギリスのスコットランドヤード犯罪博物館に保存されているらしい。